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「栽培についての雑感」

後藤 保(日本富貴蘭会副会長/秋田県)

後藤 保

いまさらながらの感もありますが、近頃、なるほどと思ったことを一つ。まず風蘭は光が当たることで光合成をし、養分を得ています。その光が弱いと葉の表面付近の葉緑素しか活躍できませんから葉は薄くなりひょろ長く育って面積で稼ごうとします。植物は無駄なことはしないものです。反対に日が強いと光は葉の奥深くまで浸透しますから体積で対応できます。葉肉は厚くなり葉は小さめで締まり気味、そして葉重ね多い株立ちが光合成に対する一番効率の良い姿となります。それでは日が強いほど良いのかというとそうでもなく、日が強いと紫外線と赤外線も強くなってしまいます。少しの紫外線でしたら根を色付かせたり斑色を鮮明にしたりしますが、多すぎると成長が阻害されます。また赤外線が強ければ葉の温度が上がりすぎて葉焼けの原因になります。そこでダイオネットなどで遮光し、調整するわけですが、だいたい15,000ルクスぐらいが無難のようです

ところで、夏に涼しく冬暖かい理想の蘭舎が欲しいと思ったのが数年前。地面以外の壁と屋根にポリカの複層パネルを張った蘭舎を建ててみました。ポリカ素材そのものは紫外線を通しませんが、それに加えて熱線カット機能の付いているものを選んでみました。これで葉焼けの原因となる赤外線もカットできるわけです。ダイオネットなどでの遮光はしませんから蘭舎内は相当明るく、照度計で測ると晴れた日の日中で35,000ルクスありました。一応これでも大丈夫と思ったものの、果たして真夏でもこの環境で行けるのか、失敗したら元も子もないと思い、今まで夏場は以前のように外棚で育てていました。ただ、一部残していたものが良く出来ていましたので、今年からは移動させずに蘭舎で育てています。恐る恐る様子を見ていますが、光の量だけ多くなったおかげか、光合成が活発に行われているようで、いつもより新根の出や仔出しも多くなったようです。やはり熱線カットの威力はなかなかのものです。という事で前提条件を一つ変えると、見える景色がガラリと変わることを体験し、いつまでたっても作は面白いものと思った次第です。