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野町敦志(日本富貴蘭会副会長)

銘鑑とは?

銘鑑とは登録品種を順位付けし、相撲番付に見立てて配置したものです。この配置は人気や普及率はもとより、芸の客観的価値や将来性などを総合的に判断して作成され、毎年の銘鑑編成会議で決定されます。日本富貴蘭会の銘鑑は令和2年度で71号と歴史を刻んできました。

古い銘鑑を見ると、今日とはまったく違った評価の品種もあれば、逆に今でも変らぬ評価の品種もあり、その時代を反映した番付に当時の富貴蘭熱を感じ取ることができて楽しいものです。

富貴蘭栽培を始めた頃、はじめて手にした銘鑑が嬉しく、また銘鑑のより高い位置の品種を手に入れることを目標にされた方も少なくないでしょう。以前の銘鑑は会員以外には決して手に入らないものでしたが、今日では会が2種類の銘鑑を発行しており、縮小版は会員以外でも手に入れることができるようになるなど、銘鑑に対する考え方には時代とともに変化した部分もありますが、基本的な部分は伝統を守り受け継がれています。

銘鑑の見方

さて、その銘鑑の見方を簡単に説明しますと、三本の大きな柱には富貴蘭の代表品種が収められています。代表品種とは当然人気があり、且つある程度普及していることが条件となります。ただ、代表品種の具体的な定義がある訳ではありませんが、私が考える代表品種とは、「富貴蘭界以外から入ってきた方々にお薦めできる品種」です。もっと具体的に言うと、富貴蘭以外の春蘭や万年青、盆栽などをされてる、ある程度のベテランさんが、業者さんに「富貴蘭をはじめてみようと思うから、お薦めのを20品種くらい持ってきてくれ」と注文された時にお薦めして間違いない品種です。

そう考えると、さらに求められる条件は富貴蘭のそれぞれの芸を代表する品種で、極端に作りにくくない品種といったところです。柱の中の順位はまず上段優秀の中央→右→左→下段中央→右→左→中段中央→右→左、次いで扇面に収められた全盛上段の中央→右→左→下段中央→右→左となります。扇面中の3品種にも本来は中央→右→左の順位がありますが三品種の組合せを優先し、順位付けは特に重視していません。

令和2年度選 第71号銘鑑の作成について

先に銘鑑編成会議で決定されると書きましたが、集まっていきなり「さて今年はどこを変更しましょう」では大変ですから、まず原案作成担当が原案を作成し、それを銘鑑小委員会で検討し、その結果を銘鑑編成会議に図り決定されます。今回は私が原案作成を担当しましたので、令和2年度原案を作成するにあたっての考え方をここでご紹介します。ただし以下の話は原案を作成するにあたっての私の考え方であり、原案が承認されたからと言って、私の考え方が会としての考え方という訳ではないことを、お断りしておきます。

まず平成から令和への改元に合わせて、大きい部分から小さい部分まで、デザインを数箇所変更しました。今回一番の変更点は、2品種をセットに軍配に納められていた全盛品種を、3品種セットにして扇面に納めたことです。セットにした全盛品種は、縞、無地、虎、花もの、そして西出系と三剣の6組です。一般の覆輪品種がないのは、太柱の優秀9品種中3品種を覆輪が占めていることからバランスをとるためです。

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扇面には太柱に次ぐ各芸の代表的品種を配置してありますが、先に述べた代表的品種の定義からはやや外れている品種もあります。‘三剣’です。最近富貴蘭を始められた方は、三剣と聞いてもピンと来ないかもしれませんが、往年の富貴蘭愛好家にとってはその素敵な言葉の響きとともに、誰もがいつか揃えたいと憧れたことのある特別な存在です。平成13年までは銘鑑ではバラバラの位置に置かれていましたが、14年度からは「宝剣・剣龍・御剣」をセットで配置されています。今回、令和になったということで、敢えていにしえの役者を看板に据えました。

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西出系には西出都と銀世界、玉錦の組み合わせも考えましたが、西鶴を入れて時代ごとの変化品種を並べました。無地の部には青海、舞鶴、そして天玉宝としましたが、ここを豆葉の部としたなら、青海が外れて緑宝あたりが入るかもしれません。虎斑の部の唐錦、豊明殿、旭昇は暫く不動の代表的品種と言えるでしょう。

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花ものの部では、レジェンド的品種の春及殿、赤と緑の代表品種、紅天狗、翡翠を選びました。縞の部は金広錦と雲龍滝、幽谷錦を選びましたが、ここに入る候補は都羽二重や金兜、織姫、宝錦、富士錦などたくさんあります。これらをある程度の周期で入れ換えてもいいのではないかと考えています。蛇足ですが、もし覆輪の扇面を作るとしたら、御旗、富士覆輪、金甲覆輪といったところでしょうか。他にも候補としては、宝覆輪や紫宸殿、天恵覆輪などもあります。ぜひ、自分だったらこの品種を選ぶのに、この配置にするのに、と考えながら見てください。

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さて話を段別のランク付けに進めます。最上段の別格稀貴品にはその時代の貴重品種・代表品種・人気品種の中から、12品種のみが選ばれます。柱の品種との違いは、こちらはより稀少性が重視され、一般に超高級品種と呼ばれる特別な品種が並びます。10この12品種という数は不変なものではなく、平成12年までは14品種、その後16品種に増やされ、16年度から12品種となっています。登録品種数も増えてきたことですし、今後また変更されることがあるかもしれません。

実際の品種の順位は、湖東錦→羆→白牡丹→金剛宝……と、右翼右端→左翼右端→右翼……と見て行きます。一つ一つの位置については、歴史や人気、現存数や増殖率から将来の人気も予測したりと、様々な要素を総合的に考え判断しますが、芸に幅がある品種については、基本的には最上芸をもって評価しています。

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2段目の稀貴品の段には新しい品種や稀少品種が並び、名鑑の中で一番変動のある場所ですから、特に注目されます。順位については右翼右端、左翼右端、右翼……となりますが、前年の登録品種が紫枠に囲まれて右翼右端に配置されていますから、今回だと建国縞、清涼殿、円窓、月輪、萩宝扇……の順となります。

新登録品種は左枠外に掲載された後、右翼右端の紫枠内に配置され、その後はそれぞれに相応しい場所に配置して行きます。以前は紫の枠はありませんでしたが、はっきり区別できるようにと、平成19年度から紫枠で囲うようになりました。細かい話ですが、今年から紫枠をちょっとお洒落にしました。

この段では、建国縞と黒牡丹の2品種については特に柄の幅が広く、位置付けについての考え方については特に衆目の一致をみることは難しいと思いますので、皆さんそれぞれ自分だったらどの位置にするか考えてみてください。麒麟樹と牡丹錦については「ちゃんとした木が存在するのか」といった意見もあろうかと思いますが、存在自体の危うさも魅力の一つと考えます。

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3段目の全盛貴品は単純に2段目と4段目の間の品種というイメージがあり、実際そういった意味合いの強い位置付けになっていますが、将来的には‘全盛’の意味をより重視した内容にしていきたいと考えています。平成15年までは、全盛貴品が2段目にあり、3段目の貴品とは意味合いの違いが明確でした。16年度から今の形になり、徐々に意味合いの違いが不明確になってしまいました。

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4段目の貴品のコーナーには、まだまだ扇面に移したいと思える品種がいくつもあります。金孔雀などは明らかに扇面の方が相応しい品種なのですが、残念ながら扇面の数が足りません。個人的には「金孔雀&曙&紅扇」の特殊芸トリオなど面白いと思うのですが、賛同を得るのは難しいでしょう。貴品と全盛貴品の中には将来入れ替えたいと思える品種がかなりの数あり、数年かけて検討したいと考えています。

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次に最下段の全盛品です。現在は2段構成になってますが、平成15年度までは6段目は衆望品という位置付けでした。その頃のどん尻品種は皇海という品種ですが、今は銘鑑から消えています。絶種したわけではなくて、富貴蘭の範疇に入るほどの芸ではないとの判断だったと思います。当時「買ったら後悔(皇海)する」なんて言われたりしてました。そうやって、わずかではありますが銘鑑から消えた品種もあります。今後登録品種が増え続けると、品種数を減らすべきとの意見も出てくるかもしれませんが、下段の字を小さくするなど工夫して、できるだけ品種を削除することは避けたいと思っています。

さて、私が原案担当になって一番力を入れて取り組んだのは、この最下段の見直しです。注目度が低いため放置気味でしたから、真剣に悩みながら再編しました。一昨年大きく変えたので、今回はそれほど大きな変更ではありませんが、扇面を作ったことで片翼23品種から22品種に減りました。この数年で最も上位に移動したのは鎧通しです。孔雀丸、兜丸、金鏤閣、大波青海、御簾影、墨流などもここ数年で上位に移動しました。墨流については上芸品を摺墨と呼びますが未登録ですから、墨流については上芸の摺墨の芸をもって評価しています。

銘鑑の位置変更は一年で大きく動かすなんてもってのほかで、一つ横にずらすくらいしか動かしてはいけないと考える方もいらっしゃいます。確かに毎年あっちもこっちもガラガラと変わってしまっては問題ですが、担当としては比較的大きく変更する大改訂の年と、小幅な変更に留める小改定の年とメリハリを付けてはどうかとも考えています。

新登録について

最後に新登録についてです。令和二年度の新登録は華山と影虎です。登録審査会は、以前は8月の役員会前日に大阪で行っておりましたが、昨年からは5月の全国大会で受け付けをして、7月の上野で審査会を行っています。なお、申請は審査会当日でもかまいません。

事前に申請受け付けを行うことにした理由の1つは、明らかに登録に値しないものについては審査会までにその旨を申請者に伝えて、審査会に無駄足を運ぶことにならないようにするためです。以前、当日わざわざ遠方から3鉢持ってこられたのに、それは既存の品種で、大変気の毒だったことがありました。また登録審査会には3鉢揃えて持ってきていただくことが原則となっていますが、すでに普及している品種についてはその限りでないと考え、人の負担も蘭の負担も軽減するために、事前にそういったことを決める書類審査をしたいと思い提案しました。

また申請がない年には申請を促したり、会として登録する品種を考えたりする必要があり、5月に受け付けを済ませておけば作業がスムーズに進みます。逆に申請数が多すぎて3点以上になったは場合には、1年の登録数は3品種までと決まってますから、3点に絞る必要があります。そうなった場合には事前に次年度に回っていただくとかの調整作業をしたいと思います。一時期は登録に参加する人が限られていましたが、最近は初めて登録に参加される方も増えて喜ばしいことです。

登録料については、以前は品種のランクによって差がありましたが、今は一律20万円と統一されました。20万は高いと思われる方も、5人まで連名で行えますから1人4万円です。まだ登録されたことのない方は一度くらいは記念にいかがですか。ちなみに、登録料が一律となったため、今回の崋山と影虎の上下の順は申請順です。

最後に私見ですが、伝統園芸植物の会として最も重要なことは大会を開催することでも会報を作成することでもなく、登録制度と銘鑑の発行だと思います。日本富貴蘭会には厳格な登録制度と、立派な銘鑑があり、これは大いに誇れることです。他の会から羨ましがられるような銘鑑を作り続けていきたいものです。